トランポリンダイエットのウソ
2015年
7月
01日
水
1.はじめに
「トランポリン広場 J-cube」のホームページでは、トランポリンの普及のため『トランポリンに対する誤解』をはじめトランポリンに関する様々な情報を提供しており、トランポリン指導者からも好評をいただいております。
そのため、他の教室のホームページやブログに無断転用されていることもあります。インターネットのホームページといえども著作権が発生し、無断転用は著作権侵害となりますが、出典元として「トランポリン広場 J-cube」を明記・リンクしていただくようお願いするにとどめてきました。
冒頭に紹介した『トランポリンに対する誤解』も他のトランポリン教室が無断転用しているのを発見しました。
ところで『トランポリンに対する誤解』ではトランポリンのダイエット効果に対する誤解についても記載しておりますが、無断転用先ではその部分が削除され転用されていました。
「5分程度で1kmのジョギングと同じ効果がある」、世間に流れている情報ですが、自分の調査範囲では、アメリカの女優(批判的内容になるため個人名は伏せます)の発言が出どころのようで、学術的な根拠は見当たりませんでした。学術的な資料としてはトランポリンのダイエット効果については厚生労働省から出ており、『トランポリンに対する誤解』ではその値を根拠に世間に流れる上記の情報ほどトランポリン運動にはダイエット効果はないと結論付けております。
ダイエットには興味のある人は多くそのような方にとってダイエット効果が大きいかどうかは、トランポリンを始めるかどうか、入会するかどうかを決めるに際して重要な情報です。「トランポリン広場 J-cube」でもトランポリンのダイエット効果が大きいならばそれを宣伝していきたいと考えますが、少なくとも厚生労働省の資料を見る限りそれは期待できません。逆に世間に流れる情報が間違っていると考えています。そう考えながら、ダイエット効果を過大にうたって宣伝するというのはトランポリンを愛好するものとしてフェアではないと考えています。逆に、都合の悪い情報であっても正しい情報を提供することこそトランポリンの普及につながると考えています。だからこそ『トランポリンに対する誤解』の1つとしてトランポリンのダイエット効果は世間に流れるほどないという情報提供を行ってきました。
しかし前掲のトランポリン教室ではトランポリンのダイエット効果について宣伝して集客をしているため、都合の悪いその部分を削除して無断転用していたのです。これは世間に対して重要な情報を隠蔽しているものと同じことです。
「5分程度で1kmのジョギングと同じ効果がある」という情報は多くのトランポリン教室で利用されています。その多くは厚生労働省の資料の存在を知らずに利用していると思われますが、その存在を知りながら意図的に隠している教室があるという事実に驚いております。このようなアンフェアなことを行う教室が確認された以上、さすがに見逃すわけにはいかず、その教室のホームページから無断転用部分を削除していただきました。
本ブログ『トランポリンダイエットのウソ』はそのような経緯を受けて、さらなる情報提供の場として始めるに至りました。
なお、「5分程度で1kmのジョギングと同じ効果がある」という情報の出所は不明であるため、その情報”嘘”であるという根拠はありませんが、『トランポリンダイエットのウソ』というあえて挑発的なタイトルをつけることによって、世間にアピールし、トランポリンのダイエット効果の有無を広めていこうと考えました。
2015年
7月
09日
木
2.トランポリンダイエット効果の誤解
今回は、まず「5分程度で1kmのジョギングと同じ効果がある」という情報についてです。これについては前回説明したように、『トランポリンに対する誤解』ですでに解説済みですが、本ブログに再掲します。
以下『トランポリンに対する誤解』から再掲
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トランポリンをすると「5分程度で1kmのジョギングと同じ効果がある」といわれています。これはトランポリンの販売サイト、トランポリン教室、トランポリンダイエットに関するサイトでよく見かけるものです。この数値の根拠がどこからきているものかは知りませんが、どうもこれは眉唾の情報のようです(ハリウッドの女優の発言が元になっているみたいですが、その発言の元になる科学的根拠は見つかりませんでした)。
なお、ここでいうトランポリンとは、「トランポリン広場 J-cube」で使用しているような大型のトランポリンではなく、家庭用のミニトランポリンを指しているものと思われます。
本題に戻ります。厚生労働省から「健康づくりのための運動指針2006」というものがでています。この中で、METS法という消費カロリー計算法が使われています。METS(メッツ)というのは、身体活動の強さを、安静時の何倍に相当するかで表す単位で、座って安静にしている状態が1メッツになるそうです。消費カロリーはメッツと運動時間に比例します。つまりメッツが大きい方が、そして運動時間が長い方が消費カロリーは大きいということです。
どのような運動をすると何メッツになるかも公表されており、トランポリンは3.5メッツだそうです。そしてジョギングは7.0メッツです。ちなみに水泳はクロールで8.0メッツ、平泳ぎで10.0メッツとなっています。
メッツの数字からすると、トランポリンはジョギングの半分の身体活動強さ、つまり時間あたりのカロリー消費量が半分となります。
7.0メッツのジョギングの速度は公表されていませんので、正確なところはわかりませんが、一般的なジョガーは1kmを6分~7分で走ります。5分で1km走るのはジョギングというよりもランニングに近くなります。
身体活動強さが半分のトランポリンを5分では、2分半のジョギングと同じ効果しか出ないことになります。ジョギングをキロ7分として計算すると、2分半で走れるのは約350mとなりますので、「5分程度で1kmのジョギングと同じ効果」というのと大きな隔たりがあります。
メッツの運動強度の計測がどのような状況で行われたのかまではわかりませんが、厚生労働省からでていますので、他の運動と同じような条件で測定した結果に基づくものと思われるメッツの値の信頼性は高いと思います。そして、メッツを元に考えると、「5分程度で1kmのジョギングと同じ効果」というのは過大評価であり、トランポリンの消費カロリーに対する誤解と考えられます。
なお、分速98mのウォーキングは3.8メッツとなっています。つまり分速98mのウォーキングの方がトランポリンよりやや消費エネルギーが大きいということです。分速98mは時速に換算すると5.88キロです。ちなみに不動産屋さんが徒歩何分と表示する場合、分速80mで計算することになっています。また一般に徒歩は時速4キロ程度としていますので、3.8メッツのウォーキングは結構早歩きをした場合です。これから考えるとミニトランポリンの効果はジョギング程なく、ウォーキングと同程度ではないかと思われます。
※ METS法は日本の厚生労働省が採用している方法ですが、元はアメリカスポーツ医学会(ACSM)が発表したものです。
捕捉・追加情報
7.0メッツのジョギングは一般的なジョギングとして書かれており、速度は公表されていません。しかし、よく調べたら時速8キロのジョギングのメッツが公表されていました。8.0メッツです。時速8キロのジョギングでは、1km走るのに7.5分かかります。上記で計算したキロ7分のより遅いジョギングが7.0メッツのジョギングです。これよりトランポリンの効果は350mよりも短いといえます。
また、ミニトランポリン上のジョギングの値も公表されています。4.5メッツです。つまり同じ時間ジョギングする場合、ミニトランポリンで行うのは、実際走るよりも効果は少ないということです。
2015年
7月
15日
水
3.「ジョギングよりも68%も運動効果が高い」
前回『トランポリンに対する誤解』から転用した記事を作成した段階では、「5分程度で1kmのジョギングと同じ効果がある」という学術的な根拠は見当たりませんでした。しかし、最近は以下のような情報も併記されていることが多いです。
「ジョギングよりも68%も運動効果が高い」
しかもこの情報はNASAの研究成果だそうです。出典が書かれているだけにこの情報は信頼性があるものと思われます。
ここで、気をつけなければならない点があります。並べて書いてあるので「5分程度で1kmのジョギングと同じ効果がある」という情報源も何となくNASAの研究成果が裏付けているように感じてしまいがちですが、NASAの研究成果は「ジョギングよりも68%も運動効果が高い」であって、「5分程度で1kmのジョギングと同じ効果がある」というのはNASAが発表したものではないのです。
つまり依然として、「5分程度で1kmのジョギングと同じ効果がある」という根拠・出典は書かれていないのです。つまり情報本がわからない信頼性のない情報なのです。一緒に書かれるとNASAという権威が裏付けしているように感じられます。しかしそれは勘違いなのです。このような心理トリックに引っかからないようにしなければなりません。
2015年
7月
22日
水
4.NASAの研究
「5分程度で1kmのジョギングと同じ効果がある」というのは、前回書いた様に信頼性の低い情報で、厚生労働省の資料を参考にするとジョギングに比べて消費カロリーは少ないと結論付けられます。
ではNASAの研究成果である「ジョギングよりも68%も運動効果が高い」という情報はどうでしょうか?多くのサイトではこの情報を記載してNASAの名前を出していますが、NASAがどのように発表したかが記載されていません。しかし一部のサイトではきちんと出典を示していました。
「ジョギングよりも68%も運動効果が高い」という情報の出典は以下の論文だそうです。
http://jap.physiology.org/content/49/5/881
残念ながら、参照サイトでは研究論文本文は書かれていません。アブストラクトが表示されています。
アブストラクトというのは、論文の要約で、長い論文を読むかどうかを判断するために研究の目的や結果などを簡潔にまとめたものです。一般的な論文では、タイトル、研究者名、アブストラクト、本文が書かれます。最近の論文はネットで読めることも多いのですが、発表されたのは1980年というかなり古いもので、現在のようにインターネットもない時代です。自分が初めてワープロを用いたのが昭和60年代(1980年代後半)のことで、それ以前は和文タイプライターを用いていました。つまりNASAが研究発表したのは電子データがない時代であり、おそらく紙で書かれたものだと思われます。だからアブストラクトだけを電子データ化し、ネット上で検索できるようにしたもののようです。
残念ながら自分の能力では本文を入手する方法がわかりませんでしたので、このブログでは次回からこのアブストラクトの中味について検証していこうと思います。
2015年
7月
29日
水
5.NASAの調査方法
NASAの研究調査では、
1)調査対象:19~26歳の男性8名
2)調査方法:トレッドミルを用いて4種類のスピードで歩行・走行した場合と、トランポリンを用いて4種類の高さで跳躍した場合について、加速度の身体分布について測定した。
3)加速度測定位置は踵、背中、額の3か所
ということがわかります。
なお、ジョギングとありますが実際はトレッドミル(室内ランニングマシーン)での歩行・走行での調査です。トランポリンでの跳躍についてはどのようなトランポリンを使用したかは不明でした。但し跳躍高さを4段階に変えて調査していますので、跳躍高さを有意に変えられるようなトランポリンを使用したものと思われます。
また機械的に走行速度が変えられるトレッドミルと異なり、トランポリンの跳躍高さは人が調整する必要があります。つまり、跳躍高さをコントロールできる程度にトランポリン運動になれた人が被験者であると考えられます。
なお、多くのサイトではミニトランポリンとしていますが、アブストラクトでは跳躍高さを変えられるようなトランポリンということだけでミニトランポリンであったのか、競技用のトランポリンであったかは判断できませんでした。
ただし、家庭用のトランポリンではトレッドミルによる歩行・走行速度に対応するほど跳躍高さを変えることは難しいと思われますので、実験に用いられたトランポリンは高さ調整ができる程度の大きさのトランポリンであったものと推定しています(ただし、アメリカでは庭が広いので、家庭用のトランポリンでも数mの大きさの大型のトランポリンが広く使われています)。本文には書かれているのかもしれないので、これはあくまで自分の推定ですが。
さらに「ジョギングよりも68%も運動効果が高い」という「68%」というキーワードもアブストラクトには書かれていません。おそらく本文に書かれているものとは思われますが。
以上のようにアブストラクトだけからでは判断できないことも多いですが、アブストラクトにはいくつかの調査結果が報じられていますので、次回から個々の成果について考察していきたいと思います。
2015年
8月
05日
水
6.研究結果1(周波数)
トランポリンとトレッドミルの測定結果の比較が行われている部分があります。比較の結果、周波数成分がトレッドミルの方が大きかったことが述べられています。
一般に固いものをたたくと高い音が発生し、やわらかいものをたたくと低い音が発生します。同様に固いものに着床すると高い周波数の振動が発生します。
トランポリンは緩衝力があると言われるように、やわらかくできていますので、堅いトレッドミルに比べて着床時に発生する振動の周波数成分が低いものと考えられます。
NASAの調査結果は理論的に想定できることを測定により確認したことになります。なお、振動の周波数成分が違うことは報じられていますが、その結果がどのように体に影響するかなどはアブストラクトには記載されていませんでした。
2015年
8月
12日
水
7.研究結果2(トレッドミルでの加速度分布)
トレッドミルでの歩行・走行の場合、走行速度に関わらず、発生した加速度は常にかかとが大きかったことが報じられています。
これは着地の際の衝撃により加速度が発生していると考えれば着地面に近い踵に大きな加速度が発生しており、背中や額は小さくなっているものと考えられます。
具体的に言うと、振動には距離減衰という振動発生源から離れれば離れるほど小さくなるとい性質があります。この距離減衰の観点から、振動の発生源である接触面から人体を伝わって全身に振動がいきわたると考えれば、かかと>背中>額の加速度となることが予測できます。実際NASAの調査結果では、そのような結果になっているので、一般的な振動伝搬理論と調査結果に相違はありません。
2015年
8月
19日
水
8.研究結果3(トランポリンでの加速度分布)
前回述べたようにトレッドミルの加速度はかかとが常に大きいというのに対して、トランポリンでの跳躍の場合、測定場所による加速度の大きさの差がないことが報じられています。
これはどういうことでしょうか?トランポリンは跳ぶだけで全身運動といわれています。前回はランニングの振動分布を距離減衰で説明しましたが、ランニングの場合着地時点では膝を曲げているため膝で振動を吸収してそれ以上の部分への伝達が小さくなっているものと考えられます。一方トランポリンをうまく利用するには、着床の際にはまだトランポリンのベッドを押し込み、一番下に沈み込んだ時点でトランポリンから最大の弾性反力を受けることです。そのためもっとも衝撃を受ける最下点ではひざを伸ばしていわゆる締まった状態で跳ぶのが正しいとされています。このため膝で振動を吸収するランニングとは異なり、人体は一体化して振動を受けることになるため、測定部位による差がないものと考えられます。
2015年
8月
26日
水
9.研究結果4(VO2とHRの関係)
VO2(酸素摂取量)とHR(心拍数)はトランポリンでもトレッドミルでも直線的な関係にあるとされています。つまり比例関係にあるということです。
VO2(酸素摂取量)とHR(心拍数)は比例関係にあるというのは一般的にも言われることで、目新しい事実ではありません。
NASAの研究ではトランポリンでも同じことが言えることが確認された程度のものです。
2015年
9月
02日
水
10.研究結果5(加速度分布の比較)
トレッドミルでは踵の加速度が大きく、背中や額の加速度は小さくなっています。一方トランポリンでは部位による差があまりありませんで。そのため、踵の加速度はトランポリンとトレッドミルではあまり大きな差はありませんでしたが、背中や踵の加速度には大きな差が生じています。つまりトランポリンの方が大きいのです。
このことから、直訳すると「生体力学的な刺激」はトランポリンの方が大きいということが報じられています。これがNASAが「ジョギングよりも68%も運動効果が高い」といっている“運動効果(運動効率としているサイトもある)”であると思われます。アブストラクトでは68%という具体的な値は見当たりませんが、トランポリンの方が大きいというのは確かにNASAが報じていることが確認できました。ただしそれは運動中に発生する加速度についてです。
2015年
9月
09日
水
11.研究結果6(前提条件)
前回NASAはトレッドミルの歩行・走行とトランポリンの跳躍による加速度を測定することにより、トランポリンの運動効果が高いこと、実際は発生する加速度が高いことを報じていることが確認できたと述べました。
しかし実験には前提条件があります。アブストラクトでは、“酸素摂取量と心拍数が同じレベルになった場合”を比較すると発生する加速度がトランポリンの方が大きいことを報じています。
酸素摂取量と心拍数は比例関係にあり、酸素摂取量は消費カロリーと比例関係にあります。つまり同じダイエット効果を得られると思われる運動をした場合、トランポリンの方が大きな加速度を受けるということを報じているのです。いいかえれば、トランポリンの方がジョギングに比べて消費カロリーが大きいという報告ではないのです。
アブストラクトでは確認できない「ジョギングよりも68%も運動効果が高い」というのはおそらく本文中に記載されているものと思われますが、ここでいう運動効果とは、消費カロリーが大きいとかダイエット効果が高いというものではなく、同じ消費カロリーつまりダイエット効果がある運動をした場合の運動刺激(加速度)がトランポリンの方が高いということを指しているのです。
2015年
9月
16日
水
12.研究結果7(無重力)
前回トランポリン運動の効果が高いというのはダイエット効果、消費エネルギーが高いということを意味していないと述べました。ではNASAがいう運動効果とは何でしょうか?
アブストラクトのまとめとして、無重力空間にさらされた人の健康障害に対するリハビリに役立つとされています。この研究は、NASAの研究らしく宇宙空間という無重力空間での健康障害に対するトレーニング法を探るものなのです。
無重力空間では重力の影響を受けないつまり体重を感じない世界です。そのため体重を支える必要がないことから筋力が衰えたり骨密度が低下するようです。この研究はそのような健康障害のための研究なのです。すなわちダイエットとか消費カロリーのための研究ではないのです。
事実トランポリンの効果をNASAが実証していると報じているサイトの中には骨密度低下のためのものであると書いているサイトもあります。つまりトランポリンの運動効果は消費カロリーが高いなどというダイエットへの効果ではなく、筋肉や骨密度といった肉体そのものへの運動効果であり、脂肪細胞への運動効果ではないと言えます。
というわけで、ダイエット効果を示すために、NASAの研究を引用するのは間違っていると考えられます。
2015年
9月
23日
水
13.加速度とは
無重力とは何でしょうか? 月では体重が地球の1/6になると言われています。これは月の重力が地球の1/6だからです。
F=ma
理科の授業で習ったことがあると思いますが、この数式のaにあたるのが、加速度で、体重に関していう場合は重力加速度というものになります。Fは重力という力で、日常的には体重と呼ばれるものになります。mは質量で個々の物質ごとに決まっているもので、地球にあっても月にあっても変わらない値です。
重力加速度は月では地球の1/6になるため、月に行くと体重は1/6になると言われているのです。同様に無重力というのは重力加速度がないということを意味しています。つまり体重も0ということです。
NASAの論文でみられるGというのは地球の重力加速度を示す記号で、その前の数字は地球の重力加速度の何倍の加速度であるかを示す値です。なお、トランポリンの場合は重力加速度の3~7倍程度の加速度を受けているということが報じられているのがNASAの論文です。
額の加速度を頭部に受けている加速度を計測したものと考えると、頭部に3Gの加速度がかかるということになります。頭部の重さは大体体重の4%程度といわれていますので、たとえば体重60キロの人の頭部の重さは2.4キロとなります(4キロぐらいあるという資料もあります)。これは1Gの加速度を受けた場合ですので、3Gの加速度を受けた場合3倍の7.2キロの力が加わったことになります。その力は首にかかることになります。
このように重力の3倍の加速度発生がすると首へは通常の3倍の力がかかることになりますので、筋肉や骨への刺激となり、からだが鍛えられることになります。これはNASAのいう運動効果なのです。
以上のようにNASAの研究成果は消費カロリーなどの効果が高いというものではなく、筋肉や骨への刺激・荷重が高いというものであると考えれば、厚生労働省などが用いているMETSと矛盾しないことになります。NASAと厚生労働省の外郭団体が調査している結果が全く異なる結果を出していると考えるよりも、METSは消費カロリーに関するもの、NASAの研究は消費カロリーに関するものではなく、加速度から求められる荷重に関するものと考えればそれらは相反することはありません。
以上は本文ではなくアブストラクトだけから判断したものですが、両者の矛盾がなく解釈できる方法であり、そのことからNASAの調査結果を用いてダイエット効果があるというのは間違いだと思います。
2015年
9月
30日
水
14.背筋力
前回トランポリンの運動効果は筋肉や骨に対して大きいというのがNASAの論文の結論と思われると書きましたが、これと同様に筋力に影響があるという調査結果があります。
「トランポリン広場 J-cube」のホームページでは「トランポリンの効果・効能」というコーナーがありますが、その中に「トランポリンをすると腰痛になる?」というコラムがあります。
そこで紹介したように日本テレビ系列で放送されている「所さんの目がテン!」という番組でトランポリンは背筋力がつくことが報道されています。
この番組はいろいろな実験を行う科学情報番組で、番組では、放送当時のオリンピック日本代表に選ばれていた中田大輔選手の背筋力と他のスポーツ選手とを比較していますが、中田選手の背筋力が他のスポーツ選手に比べて高いという結果を得ています。番組の調査では柔道やウェイトリフティングのトップ選手の背筋力が200キロ前後に対して、中田選手は軽く200キロを超していたそうです。そのためこの番組では“トランポリンは背中で跳ぶスポーツだ”と紹介しています。
http://www.ntv.co.jp/megaten/
この番組調査が正しければ、トランポリンでは背筋力つく、一般受けする言葉でいうと体幹トレーニングになるということです。
2015年
10月
07日
水
15.背筋力(2)
前回紹介したテレビ番組は中田選手ひとりの調査結果であり、サンプル数は1つでたまたま中田選手の背筋が強かっただけという可能性もあります。しかし、トランポリン選手の背筋力に関しては他にも調査結果があります。
現在解散して、日本体操協会に吸収合併された日本トランポリン協会が以前強化合宿中の選手の体力調査を行っています。その中には現在は身体を痛める危険性があると言われて行われていない背筋力測定が含まれていました(測定は反復横とび、垂直とび、背筋力、握力、立位体前屈、伏臥上体そらしの6項目)。その結果が日本トランポリン協会広報(No.42号p9、平成11年6月)に掲載されています。
同資料では以下のように書かれています。
“全国平均値との比較検討を実施します。今回の測定において、男女に共通して言えることは、強化選手の測定項目6項目のほとんどのデータが全国平均より高い記録を示している点です。特筆すべきデータは、背筋力の値です。男女とも各年齢層において、全国平均を大きく上回っています。"
この結果は、トランポリンの運動特性から推測するに、運動実施の際上肢の振り上げによって背部筋群の動員が大きい結果に基づくものと考えられます。“
すべての項目おいて平均より高いというのは当然です。全国平均にはあまり運動をしていない者も含まれているのに対して、この測定結果は認定強化合宿に参加するような選手に限定されているからです。他のスポーツにおいても同様の測定を行えば同じ結果になるものと思われます。ここで重要なのは、他の測定項目よりも目立って背筋力が大きかったという点です。
前回紹介した「所さんの目がテン!」同様、背筋力が強化されているということを示しています。このことから、トランポリン運動は背筋力強化に役立つと考えられます。
2015年
10月
14日
水
16.トランポリンのダイエット効果は不明
前回紹介した、日本トランポリン協会広報(No.42号p9、平成11年6月)においてトランポリン運動強度の判定資料として、血中尿酸値・心拍数の測定実験が行われたことも報じられています。しかし残念ながらその結果については、今後“明らかにしていきたい”とされ同号では報告されていませんでした。
体力測定結果についてはその後も報告がありましたが(ただし背筋力ついては見当たらなかった。なお現在の文部科学省の全国調査においても背筋力測定は行われていません)、血中尿酸値・心拍数の測定結果についてはその後も報告されていないものと思われます。その結果があればトランポリンダイエット効果についての重要な根拠となったのですが。
推測ですが、血中尿酸値・心拍数の測定結果が報告されなかったのは、特別報告するような結果が見られなかったためかもしれません。
2015年
10月
21日
水
17.膝への負担
ダイエットとは関係ありませんが、トランポリン運動の利点としてジョギングなどに比べて膝への負担が少ないということがうたわれています。今回はこれについて述べたいと思います。
これについては事実だと思います。
詳しいデータは記載されていませんが、金沢大学の山本博男教授によると、ミニトランポリンで運動した場合、ひざにかかる負担は床上の1/4~1/3に軽減するのだそうです(日本トランポリン協会広報 No.25、平成3年5月 p3参照)。
さらに、「トランポリン広場 J-cube」では、「トランポリンの科学徒然日記」というブログ内でトランポリンについて、力学的な考察を行っています。こちらでは「衝撃力」「衝撃力2」とうタイトルで、競技選手が受けると想定される荷重を算出することを試みています。その結果、5m近くという極めて高い所から落下しているにもかかわらず、トランポリンの緩衝力によって、トランポリン選手が受ける衝撃力はジョギング程度になっていました。これはあくまで計算上で実測したものではないですが、あれほどの高さから落ちても怪我をせず連続で跳躍できることを理論的に証明したものです。
以上よりダイエット効果と異なり、世間で流通しているトランポリン運動は、膝への負担が少ないというのは正しい情報だと考えています。
2015年
10月
28日
水
18.12分間走
前回紹介した日本トランポリン協会広報(日本トランポリン協会広報 No.25、平成3年5月 p3)ではほかにもトランポリンの効果についての記述があります。
金沢大学の山本博男教授の研究(『ミニ・トランポリンを利用したエアロビック・ダンスのトレーニング効果』)によると、連続8週間ミニトランポリンの上で縄跳びやエアロビクスダンスなどを行ったグループとそうでないグループについて12分間で走った距離を比較したところ、トランポリン運動をしたグループの方が平均150mほど長かったそうです。このことからトランポリン運動をすることにより心肺機能や持久力が向上すると考えらると報じています。
ただし、トランポリン運動をすると走行距離が長くなるとはいっても、これはトランポリン運動でなくても連続8週間運動したグループとそうでないグループを比較すれば、運動をしたグループの方がよい結果が出るのではないかと思います。例えばジョギングをしていればもっと良い結果が出たかもしれません。つまり、トランポリンだから高い効果が出たというものではなく、ましてやジョギングに比べて効果があるということを報じたものでもありません。
持久力や心肺機能を高める運動としては他にもよい運動はあると思われますが、トランポリン運動が他の運動に与える影響はあるようで、「所さんの目がテン!」ではミニトランポリンで跳躍した前後で計測したところ、テニスのサービスのスピードがアップしていました。番組では筋電図を測定しトランポリン運動を行うことにより力みが解消されていることが確認されたそうです。同様に重心位置もトランポリン運動をすることにより安定し、姿勢がよくなることも報じられています。空手についても同様にトランポリンで跳躍した後の結果がよくなっているとのことです。
以上からトランポリン運動は、他のスポーツ選手にも有効なトレーニング手段であると考えられます。
2015年
11月
04日
水
19.トランポリンの運動に対する効果
さて、ここ数回はトランポリンのダイエット効果から離れ、それ以外のトランポリン運動の効果について述べてきましたが、このブログの最後としてトランポリンの消費カロリーについての実測結果について書きます。
日本トランポリン協会広報(日本トランポリン協会広報 No.25、平成3年5月 p3)にトランポリン運動の消費カロリー調査結果が紹介されています。調査をしたのは当時の足立区トランポリン協会理事長・阿久井正己氏で早稲田大学トランポリン同好会の男子トランポリン選手6名が交替で、50分間競技用トランポリンでジャンプした際の消費カロリーを計測しています。その結果、50分間の消費カロリーが平均380キロカロリーだったそうです。
以下のサイトでは各種運動の消費カロリーが載っています。
http://diet.netabon.com/diet/basic/calorie_ranking.html
これは1時間当たりのもので、阿久井氏の調査結果は50分間のものですので、1時間あたりに換算すると456キロカロリーになります。広報ではサッカーに相当するとかかれていますが(たぶんサッカーとの比較をイメージして計測時間も50分に設定したものと思われます)、上記のサイトを参照するとサッカーよりは少なく、フットサルと同程度(細かくいうとやや小さい)と考えられます。フットサルと同じレベルの種目としてはテニス、バドミントン、バレーボール、スキー、空手、剣道、柔道があるようです。
なお、上記はミニトランポリンのものではなく、競技用トランポリンです。実験では交代でジャンプしており、休憩時間が含まれており、実質的な1回の運動時間は38秒だそうです。これは実際のトランポリン競技の演技時間(予備跳躍を含む)に近いものと考えられます。『トランポリンの運動強度に関する一考察』(阿久井正己、中村茂)では休憩時間を考慮して消費カロリーを求めております。それによると、1回の試技の消費カロリーは24キロカロリー、1分当たり38キロカロリーです。
初心者は高いジャンプができませんので、これほどエネルギーを消費しない可能性がありますが(逆に力みがあり消費カロリーが高くなる可能性もあり)、普及指導員講習教本では初心者の1日の練習は1分程度を10周程度に収めることとなっていますので、1日の練習で消費できるカロリーは380キロがおおよその上限だと思われます。
各種スポーツの消費カロリーをまとめた参照サイトによると、ジョギングの消費カロリーは605キロとなっています。つまり競技用トランポリンでの跳躍運動で1日で消費できるカロリーは初心者の場合ジョギングのおよそ2/3程度です。
競技用トランポリンあるいは普及用のトランポリンの運動はかなり激しい運動であるため、1時間も連続で運動することはできません。そのため、1時間当たりの消費カロリーはジョギングほど大きくないと考えらます。
2015年
11月
25日
水
20.最後に
「5分程度で1kmのジョギングと同じ効果」とい情報についてはその根拠が不明です。逆にMETSではジョギングに比べて1/3程度の運動強度であることが示されています。両者は完全に異なることを伝えています。信頼性が高いのはMETS法の値と思われますので、「5分程度で1kmのジョギングと同じ効果」という情報の信頼性は低いと考えられます。
また、「ジョギングよりも68%も運動効果が高い」というNASAの研究は心拍数や酸素消費量を合わせた条件下で体の各部に発生する加速度を調査したもので、加速度の刺激により骨密度や筋肉に対する効果を示したものであり、それを利用して無重力空間による健康障害対策としての利用法を提案しているものと考えられます。つまり、この研究成果はジョギングとトランポリン運動の消費カロリーを比較した論文ではなく、運動効果とはダイエット効果に関するものではないのです。
さらに阿久井他の研究成果からは、競技用トランポリンでの運動においても、初心者の場合ジョギングほどの消費カロリーが得られないことが導けます。
以上から、世間に流れているほどトランポリンのダイエット効果はなく、トランポリン運動のダイエット効果はジョギングに及ばないと考えられます。むしろトランポリン運動は日本トランポリン協会の調査結果にあるように背筋力に対する強化運動として有効であり、またNASAの研究にあると思われる骨密度に対する刺激、あるいは世間一般でも認知されている平衡感覚(バランス能力)のなどに有効なトレーニング手段であると考えられます。
さらに日本トランポリン協会が考案したシャトルゲームは、トランポリンエアリアルトレーニング(通称バッジテスト)の神髄であり、それは最近文部科学省や日本体育協会が提唱している「多様性ある運動」として幼少期の運動能力向上のためのトレーニング手段として有効であると考えています。
「トランポリン広場J-cube」ではトランポリンのダイエット効果は低いですが、以上のように運動神経向上、バランス能力の開発、重心の安定化や背筋力アップによる正しい姿勢の育成につながる運動としてトランポリン運動は有効なものであると考え、トランポリンの普及に努めております。
2017年
9月
05日
火
トランポリン競技のMETs
トランポリン競技のMETsがわかりましたので、追加します。
トランポリン競技のMETsは4.5ということです。トランポリン競技であってもジョギング程の効果がないことがこれからわかります。
もっともトランポリン競技の場合、1分も連続で跳ぶと疲れてしまう有酸素運動ではないので、ダイエット効果はそれほどないというのは予想がつくものでした。