資料編
日本トランポリン協会広報における事故報告
日本トランポリン協会は解散して日本体操協会の一部となりましたが、日本トランポリン協会時代に発行されていた広報にトランポリンにおける事故や安全に関する記事がたくさん載っていました。これらの記事は非常に貴重なデータであり、それらをまとめることは、事故調査の貴重な資料となります。
また、広報に掲載された情報はトランポリン関係者にとっては知っておかなければならない常識といえますが、過去の資料に全て目を通すのはなかなかできないことです。そこで、事故や安全性に関する記事をピックアップして掲載することにより、指導者の知識向上、ひいては安全性向上に役立つと思います。ここに紹介したのは記事の概要だけです。詳細は必ず広報を読んで確認してください。
2013年
10月
09日
水
No.6(昭和56年12月)
「スポーツ事故の対策」(1ページ)という記事が載っており、スポーツ事故と法的責任の概要が説明されています。この記事中「危険の同意」、「過失」、「注意義務」について説明がなされているので、詳細は広報をご覧いただくとして、上記の3つについては、スポーツ事故を法律上の取り扱いについて非常に重要な問題ですので、別途稿を改めて解説する予定です。
2013年
10月
16日
水
No.8(昭和57年12月)
昭和57年に行われた第4回全国研修大会の報告記事中(1ページ)に、埼玉県トランポリン協会の市橋先生から、傷害事例の報告がなされたことが載っています。傷害の内容については、広報に記載されていませんが、報告に値する重大事故があったと推定できます。
また、全国のトランポリンクラブを紹介する、クラブだよりのコーナー(4ページ)に掲載された「すいぶるクラブ」の記事に宙返りの失敗による事故が3件起きたことが紹介されています。3件の傷害状況は、骨折1、脱臼1、ねん挫1です。幸いにも頚椎損傷などの重大な事故ではありまえんが、実際の事故があったことが示されたことが広報に載った最初の号です。
なお、すいぶるクラブが事故に対して行った対策も紹介されています。習熟度を点検し、基本種目の再確認とそれらを用いた連続練習を重点に置いた練習を行うようにしたということです。
事故に対して、原因を追究し、対策を立てるということは非常に重要ですが、おざなりになりやすいことでもあります。事故対策のお手本として非常に重要な報告だと思います。
2013年
10月
23日
水
No.11(昭和59年7月)
2ページに当時女子のトップ選手であった半田玲子選手の近況報告がなされています。その中に半田選手が練習中にけがをしたことが載っています。合宿の練習中に転落して、頚椎捻挫で1か月入院したとあります。詳細は分かりませんが、転落というのは、トランポリンからの転落ということと思われます。転落は大きく分けて宙返りによる前後への転落と、ひねりによる横方向への転落がありますが、どのような種目によるものかは不明です。
事故の詳細はともかく、トップ選手が参加している合宿ですのでそれなりの設備と指導者のもとに練習していたと推定されます。それでも事故が起きているということは、トランポリンというスポーツをするうえで、どうしても避けられない危険性はあるということを示しています。
2013年
10月
30日
水
No.14(昭和60年12月)
シャトル公式ベッドで事故続出という記事が載っています(8ページ)。ここでいうシャトル公式ベッドとは従来使われていたウェーブベッドや吉田体機工業のメッシュベッドより跳ねるベッドということで、現在使われているメッシュベッドのことと思われます。このベッドにより石川県内で3~4か月の間に、骨折3件(子供2、大人1)と膝内障の4件の事故が起きたことが報告されています。また、具体的な件数は書かれていないが、バランスを崩したなどにより着地後に再跳ね上げにより首から落下する事故も多発していることが報告されています。
対策として、跳ね上げのつよいベッドを使わない方がよいという意見もあったようですが、このベッドを使いこなせるようにするための指導力を身に着けていくことが大事ということに落ち着いたということです。指導力を高めていく方法についても具体的に記されていますので、興味のあることは広報No.14の8ページをご覧ください。
2013年
11月
06日
水
No.15(昭和61年7月)
スポーツ安全保険に賠償責任保険が追加されたことに対する紹介記事が掲載されています。
賠償責任保険は法的に過失があり、損害賠償責任が発生した時にきく保険です。賠償責任が発生するのは、指導者の場合は安全義務に、施設管理者の場合は設備の安全管理に、スポーツをする場合は他人や他人の備品などを壊した場合などで過失があった場合発生します。逆の観点からいうと、指導者などにミスがなければ使えない保険でもあります。記事の内容は現在の保険とは一部異なっていますが、スポーツ安全保険の整備の過程がよくわかる記事ですので、一読の価値はあります。
2013年
11月
13日
水
No.22(平成元年12月)
1ページ目にコーチ制度の整備と安全指導講習会の開催についての記事が掲載されていて、普及指導員が選手育成を行うことは、「普通免許で大型バスを運転するのと同じ」と評しています。
また、「大事故が発生した場合普及指導員の資格では協会は救護の手を差し伸べることができない」としています。
これは、まず普及指導員ができる範囲は脊椎損傷などの大事故を起こす危険性がない種目のみに限定していること、また普及指導員の資格は日本トランポリン協会の作成した段階練習に基づいた指導を行うことになっており、その指導範囲内のことを指導手順に従っておこなった場合、日本トランポリン協会が指導上の過失はなかったことを保証するということです。逆を言えば、指導範囲や指導手順を逸脱した場合は日本トランポリン協会はタッチしないということです。言い換えれば、指導範囲や指導手順を逸脱した場合は普及指導員の資格の有無は関係なく、自己責任において行い、過失がなかったことを自分自身で証明する必要があるということです。万が一裁判になった場合、トランポリンについてはほとんど無知な裁判官に対して、自分の指導に過失がなかったことを、協会のような後ろ盾をなくして説明するのはかなり大変な労力になります。
なお、普及指導員の資格は法律などで制定された資格ではないので、資格を持っていないことが法的な過失に直結するものではありません。これについては、自動車運転免許を例にして改めて解説したいと思います。
2013年
11月
20日
水
No.24(平成2年12月)
3ページの世界選手権の報告記事中に、立崎選手が骨折し、復調しないで出場したことが報じられています。事故の詳細は分かりませんが、世界選手権レベルの選手が骨折したことがわかります。選手は、トランポリン競技にはどうしても避けられない危険性が存在するということを理解してトランポリン競技に臨む必要があるということを示しています。
2013年
11月
27日
水
NO.39(平成10年1月)
No.39号から研究・安全対策委員会の記事が載るようになりました。この記事中コーチ研修でも取り上げられた、山崎博和氏の「トランポリン競技選手の傷害に関する調査研究」の概要が掲載されています。
山崎論文では、トランポリンの傷害の状況について、以下のようなことが報告されています。
1.年齢が上がるにつれて高度な種目を実施するため、加齢とともに傷害経験率が上昇する。
2.練習計画を選手自身が行っていることが多く、安全意識が高いにもかかわらず、練習計画が適切さを欠いているため、傷害につながっている
3.指導者の人数が少ない環境において傷害の発生率が高くなっている傾向がある
4.練習頻度が多くなると傷害の発生が高くなる
なお、上記の原因として、選手の緊張感や集中力との関係が示唆されています。
5.技術的には回転系よりひねり系の技を不得手と感じている選手において傷害の発生率が高くなっていること。
6.脚の傷害については、加齢と練習決定者との関係が示唆されており、選手自身が練習計画を立てることによる不適切な計画がその要因とされている。
以上を踏まえた対策も報告されていますので、指導者の方はNo.39号38ページをご覧いただくこととして、ここでは、法的な問題として重要なポイントを紹介しておきます。それは、指導者の適切な配置と指導者から見た客観的な判断による適切な練習計画が必要であるということです。
2013年
12月
04日
水
No.40(平成10年6月)
研究・安全対策員会報告の報告記事で「全米トランポリン・タンブリング ホームページ」が紹介され、その中にジュニア育成プログラムがあり、内容までは掲載されていませんが、18項目の安全規定がアメリカにはあることが報告されています。
日本でも同様な安全規定の整備が望まれています。
2013年
12月
11日
水
No.43(平成12年1月)
38ページの「研究・安全対策委員会・活動計画について」という活動報告中に、「傷害調査の必要性について」というものがあり、その中で、以下のような記載があります。
「規定演技の改定により段階練習の十分な習得をせず、より高度な競技種目の獲得を狙うものが出現することが予測され、その結果、傷害が引き起こされる危険性が高くなるのではという懸念もあります」
上記の状況に対応するために、アンケート調査を計画していることが報告されています。
高度な種目になればその分、重大な事故が起こる可能性はあります。高度な種目を練習させるに対して、それに応じた対策も高度化する必要がありますので、そのもととなる調査を行うのは非常に大切なことですし、その結果を生かした安全対策が講じられることも重要です。
2013年
12月
26日
木
No.44(平成12年6月)
研究・安全対策委員会から「大学トランポリン競技者における傷害についての調査報告」がなされています。以下のその内容をかいつまんで紹介します。
傷害の発生時には、疲労していた、集中力を欠いていたという回答が多いので、指導者は選手の状態(健康上と精神状態両面)を把握し、練習時の環境設定について十分な配慮が必要であることが報じられている。
なお、傷害の内容と実施種目の一覧に27件の傷害が掲載されている。それを見ると、12件の骨折(内2件は疲労骨折)、靭帯損傷9件、ねん挫2件、その他の関節傷害4件である。競技選手の調査のため疲労骨折以外についての実施種目のほとんどは宙返りであり、アンケート調査のため、重大な事故のみが抽出されているものと思われます。
しかし、回答数48名中12件の骨折があるということは、回答数の25%、つまり大学競技選手の4人に一人は骨折を経験しているということになります。これは、アンケートに回答したものなので、重大なけがをしたものが回答を積極的にした可能性もあるので、実際の比率はもっと少ないかもしれないし、対象となったのは大学生であり、大学生の場合大学からトランポリンを始めて、数年の間に宙返りを実施しているものも多いことから、段階練習や反復練習が不十分な状況で発生しているため事故率が高くなっている可能性もあると思います。
しかし、調査報告のアンケート結果の有効回答率が1/3であることから、回答しなかったものが骨折を経験しかなったと仮定してもアンケートを送付されたもの(大学トランポリン競技者143名)のうち8%程度は骨折を経験していることになります。個人的な感想では、この骨折経験率はかなり高い率であると思います。
これではほかのスポーツと比べて安全性にそん色はないというのは難しいといえ、当時と現在の状況は異なるかもしれませんが、この報告書を見た感想として、大学トランポリン競技団体は安全性に一層努力してもらいたいと思います。
2014年
1月
08日
水
No.46号(平成13年6月)
賠償責任保険制度の見直しについて 保険代理店の「スポーツ指導中における賠償責任保険の考え方について」が紹介されています。今回はその記事で重要なポイントを説明しておきます。
損害賠償責任保険は損害賠償責任が発生した場合に支払われる保険で、責任がないのに支払った金銭は保証されません。損害賠償責任があるかどうかの判断基準としては判例を参照するとあります。損害賠償責任に加入するには、「施設賠償責任保険」、「傷害保険」の2つの方法があるとなっています。なお、この記事には書かれていませんが、現在では指導者責任保険というのを協会で取りまとめて加入できるようになっています。
2014年
1月
15日
水
No.49(2002年11月)
研究・安全対策員会報告(9ページ)に傷害調査実施を計画していることが報告されていす。前回の調査は大学の競技者だけが対象でしたが、次回は日本トランポリン協会登録者全員を対象として行う予定となっています。
2014年
1月
22日
水
No.51(2003年6月)、No.52(2003年11月)
No,51号、No.52号はページがふられていませんのでページは省略します。No.51に掲載されている平成14年度第2回総会議事録にある追加第1号報告にマッズ・S・ヨハンセンというデンマークの選手が全身麻痺というけがを受傷し、救援基金設立のための募金の依頼について総会で了承されたことが書かれています。
次のNo.52号では、救援基金に対するデンマーク体操協会および受傷した選手のコーチのお礼が掲載されており、その中でヨハンセン選手の近況(けがの状況)が掲載されています。
どのような事故なのか詳細は分かりませんが、トランポリンには全身麻痺に至る事故が発生する危険性が潜んでいることがわかります。
2014年
1月
29日
水
No.52(2003年11月)
No.49(2002年11月)で実施が予告されていた傷害調査の結果の一部が掲載されています。
アンケートは選手登録している990人を対象として、回答は388人(回収率39.2%)となっており、内容としては調査概要と「競技者の個人属性」(年齢や競技年数など)の単純集計結果のみが報告されている。20~30%が傷害の経験があるという内容になっており、 傷害部位としては、脚部が最も多くついで腰部、ついで腕部、頸部、頭部の順になっている。腕を除くと下半身から順番に事故の発生が多いことがわかります。
残念なことに、調査結果の続報が見当たりません。非常に貴重な調査結果ですので、単純な集計結果だけではなく、分析結果、原因解明、安全対策などについての報告を望みます。
2014年
2月
08日
土
No.55(2004年11月)
以前本編で紹介した徳島県におけるエアートランポリン事故について、平成16年度第2回理事会で報告されています。
本来エアートランポリンはトランポリン協会の扱うトランポリンではないが、「トランポリン」という名前がつかわれている以上、無視できないということのようです。
なお、このブログでも、トランポリンの事故に遊具のトランポリンを含んで書いています。日本トランポリン協会が対象としているトランポリンだけを抜き出した分類は非常に難しいからです。トランポリンは国体競技ではないため、一般にスポーツとしてトランポリンで分類されることは少なく、「その他」の扱いになります。その他のスポーツの事故にトランポリンの事故は含まれることが多いため、事故件数などの調査は非常に難しくなっています。
またトランポリンは練習道具として、体操競技、飛び込み競技、スノーボードなどでも多くのスポーツで用いられ、そちらで発生した事故はその競技内の事故として扱われることが多いです。特にトランポリンに関する裁判は体操競技での練習で起きた事故に見られることから、トランポリンにおける事故であっても体操競技の事故として扱われていることが多いように思われます。
2014年
2月
11日
火
No.55(2004年11月)
No.55号には「傷害の回避を願って」という記事が載っています。この記事では「スポーツ外傷」と「スポーツ障害」の違いについての説明と傷害の発生原因について書かれています。残念なことですが、ページがふられていないのでページを記すことができませんが、必読の記事です。
なお、傷害の発生原因は以下の9つに分類されるそうです。
1. 技能不足
2. 能力過信・無謀な挑戦
3. 疲労・身体の不調、睡眠不足
4. オーバーワーク
5. 練習環境
6. 集中力欠如
7. ウォーミングアップ・クーリングダウン不足
8. コンディショニング不足
9. 不可抗力
9つ目の不可抗力を除けば、他の8つは選手・指導者の注意や努力により事故の発生は防げるものですので、事故が起きた場合は指導者の責任または選手自身の過失(自己責任)となります。
2014年
2月
15日
土
No.58(2005年11月)
12ページのオリンピック強化選手の強化合宿報告中に、広田選手が故障中、半本選手が合宿中に首を痛めたといことが記載されています。廣田選手の故障については詳細は分かりませんが、半本選手については合宿中に「危険な落ち方」をして首を痛めたため、練習をやめたことがうかがえます。その結果として、半本選手とシンクロを組む予定の世戸選手の練習内容が変更になったことも報じられています。
「危険な落ち方」とあり傷害部位が首でありますので、頭部からの落下と思われます。
オリンピック強化選手の強化合宿でもこのような事故が起こるということは、トランポリン競技にはどうしても避けられない危険性が潜んでいるということを示しています。
なお、廣田選手についてはこの後の北京オリンピックの選考会前(2007年)に疲労骨折、北京オリンピック出場前(2008年)には恥骨骨折したことが報じられています。全日本選手権を10連覇するなど頂点でのキャリアの長い選手だけにけがも多かったようです。
2014年
2月
22日
土
No.59(2006年2月)
17ページに「スポーツ賠償責任保険のおすすめ」というのが載っています。賠償責任保険は指導などに過失がある場合に負う賠償責任に対して利用できる保険です。従来は宙返りの指導ができるコーチ資格所持者だけを対象としていましたが、宙返りなど高度な種目を指導しない普及指導員も加入できるようになっています。
なお、賠償責任保険はふつう、スポーツ保険や施設賠償責任保険など他の保険に付属しなければ入れない保険で、このようにスポーツ賠償責任保険というのに単体では入れるものは少ないです。協会でまとめて加入するために設定された特別な保険のようです。
2014年
3月
01日
土
No.60(2006年6月)
以前にも紹介したアミューズメントセンターの事故の記事が掲載されています(5~6ページ)。
ここでは、事故の要因について抜き書きしておきます。
1) 注意書き看板はあったものの、指導的・監督的立場の人員が配置されていなかった。
2) 負傷者は、店員が注意したにもかかわらず宙返りを行い、頚椎損傷事故を起こした
3) 午前2時ごろという通常運動を行わない時間帯である。
この点から、事故の要因は負傷者本人と施設側両方にあったとしています。
海外の事例にもたびたび出ていますが、常に監視者(できれば指導者・監督者)を配置していれば、防げた事故と思われます。
遊具の場合野放し状態で利用できることも多く、このように監視者がいないことは過失になるという判例が出ればこのようなことはなくなるのではないかと思います。ただし、学校の事故における判例などを見ると、学校の場合、コーチ・教師がいないときに事故が発生していることが多く、その場合、必ずしも指導者不在=監督責任の過失となっていないので、このような状態が起きているものと思います。でも、学校の部活の場合、教師は職業的に行っているのではなく、教育の補助的な立場であることも多く、アミューズメントセンターやトランポリン教室の場合とは異なるとも考えられますので、いずれはそのような判例が出るのではないかと思います。
なお、公共体育館で活動している場合、指導者がいることがトランポリンの貸し出し条件になっていることが多く、指導者が不在で事故が起きた場合、貸し出し契約に対する違反行為となりますので、民事上の責任は大きいと思います。
2014年
3月
08日
土
No.61(2006年11月)
2~4ページにワールドカップシリーズの報告が掲載されています。この中に競技運営の仕方に問題があったということが報告されています。サブ会場がなく、当日10分程度のウォーミングアップしかの練習時間がなく、そのため中断が多かったということです。
大きな事故はなかったようですが、練習時間が少なくそのため中断が多いということは、大事故が発生する可能性も否定できません。もしそのようなことになった場合、通常の大会と異なる運営方法、練習時間を設定した大会運営者の過失となる可能性も十分あると思います。
2014年
3月
15日
土
No.61(2006年11月)2
前回述べたワールドカップシリーズの報告では続いて、器具個々の差による影響についての記述があります。トランポリン競技はクラブセットを持参して行うゴルフなどのよう選手各自がトランポリンを持参して行う競技ではなく、大会が用意した器具を用いて行わなければならない競技です。そのため、器具個々に合わせられる能力が必要であり、本番の器具がどのような状態であっても、成功できるように普段の練習で「身体的条件」及び「技能的条件」を整えて「完成度の高い技」で挑むことが大切と書かれています。
上記のようなことが公式にうたわれていることから、明らかな器具の故障以外の個々の器具の性能差を原因とした事故の場合、選手および指導者の責任となると考えられます。
逆に言うと器具が故障していた場合は、大会運営側の責任となります。
2014年
3月
22日
土
No.61(2006年11月)
8~9ページにオリンピック強化選手の強化合宿報告があります。その中に中田大輔選手の事故についての記載があります。
事故の状況は、練習中に落下してきた選手を中田選手が補助して、その際に後方に倒れて首を強打したというものです。アイシングをしながら合宿には参加したとありますので、重大な事故ではなかったようですが、選手が落下するという中田選手の補助がなければ重大事故になっていたかもしれない事故が発生したということです。
強化合宿中の事故はかなり報告されていますが、こうなると安全対策に問題がないのかちょっと心配です。
なお、トランポリン競技では落下に備えてスポッターという人員を配置して万が一、選手が落下した場合に補助するようになっています。何メートルからの高さから落下してくる衝撃はかなりのものですので、この事故のようにスポッター役の人が受傷することも多いです。自分の安全確保だけではなく、スポッターの安全を確保することも選手の義務です。もし選手が無謀な挑戦をした結果、スポッターの方がけがをした場合、選手の過失となることでしょう。
2014年
4月
26日
土
No.62(2007年2月)
10~13ページにかけて、「トランポリン活動の事故防止に関して ~あなたのクラブの安全管理は大丈夫ですか?~」という記事が載っています。3ページわたって、「安全管理の方法」、「安全指導の方法」、「補助の必要性」の3項目について解説されています。
指導者必読の記事です。日本トランポリン協会の広報により公に報じられている、この記事に載っている安全対策を行っていないことは指導者の過失となるといえます。
2014年
5月
10日
土
No.66(2008年6月)
7~8ページに第19回全日本年齢別大会の報告記事が掲載されている。その中に「危険な場面が見受けられた。幸い命に係わる大事故には至らなかった」とあることから、重大事故になる可能性のあるような状況が発生したことがうかがえます。
選手およびコーチに対して注意喚起でくくられていますが、この事故はヒヤリハットとしては重要なデータになると思われます。もう少し原因調査など突っ込んで行った方がよいのではないかと感じます。
2014年
5月
31日
土
No.67(2008年11月)
5~7ページに岩下コーチの北京オリンピックの報告が掲載されています。その中に北京オリンピック日本代表の廣田選手のけがについて記載されています。
北京への出発の2週間前の合宿最終日にスポッターマットによるアクシデントにより恥骨損傷(報道関係によると恥骨骨折)、うちもも肉離れをして、完治しない状態で出場したことがわかります。なお、安全対策としては、難度を下げて出場したとあります。
このけがについては、オリンピック終了後に公表されたと思いますが、スポッターマットのアクシデントとありますので、スポッターを担当した人の責任問題に発展しないように配慮したものと思われます。
なお、シドニーオリンピックでも中田選手がけがをした状態で出場していました。
選手にとってオリンピックに出るかどうかは、その後の人生において非常に重要な分岐点となりますが、体調不良による事故ということも考えられます。オリンピックという世界中が注目するイベントで万が一大事故に発展すれば、そのスポーツの受けるダメージは計り知れません。同じ北京オリンピックで女子マラソンの野口みずき選手が肉離れを原因に出場を取りやめているのと合わせると、廣田選手もすでに2度目のオリンピックでしたので、別な選択もあったのではないかと思います。
なお、このけがをおしての出場という問題は、よく考えてみたら子供のころに見た「巨人の星」でも取り上げられていたように思います。つまり何十年も前から問題視されているが未だ解決策はないというものです。
もし大事故になっていた場合、法律上で考えると選手本人の責任だけではなく、コーチや医師の責任も検討されることになると思います。
2014年
6月
28日
土
合宿における事故
広報の記事を調査した結果、合宿中における事故報告が目立ちます。普段の練習の事故の場合クラブ内で処理され日本トランポリン協会には伝わっておらず、逆に合宿の場合は協会が把握しやすいということもありますが、合宿では事故が発生しやすいということも言えるのではないかと思います。
合宿の場合は普段と異なる練習環境、指導者も違い、また練習メニューも異なるものとなっています。
普段と異なる環境での練習ですので、事故が起こりやすいのではないかと推定できます。つまり、合宿など普段と異なる練習環境の場合はいつも以上に安全に対する配慮が必要といえます。
2014年
7月
05日
土
事故分析における注意
事故が発生した場合、原因を把握することは非常に重要です。前回合宿中における事故記事について書きました。
合宿中の事故の記事が多いことについては、2通りの考え方があります。1つは合宿中という日本トランポリン協会が把握しやすい状況で発生しているため、記事になり易いというものです。もう1つは合宿得普段と異なる環境による影響で事故が発生しやすいという考え方です。
合宿中に事故記事がのるのは前者によるものが多いと思いますが、事故が発生した時、人は自然と無意識に責任から逃れようとします。合宿の事故記事が載っているのは前者のせいであると結論付けるのは簡単です。合宿中における事故は普段の練習と同じ程度しか
発生しないとすれば、まさに前者による理由によるものです。しかし、普段の練習と比較調査を行わなければ本当に合宿中において事故の発生は普段と変わらないのか、多いのかは判断できません。もし、前者によるものと結論付けてしまっては、本当は合宿という練習環境による影響があったとしてもそれはそのまま闇に葬られてしまうことになります。このような隠れた危険性を見逃してしまっては、事故調査としては不十分です。
事故調査の際には、責任が本当になかったかどうか、一見明らかな原因に隠れて別の危険性がなかったかを見逃さないように考えることが重要です。
2014年
9月
27日
土
スポッターについて1(概要)
No.67号にある廣田選手の事故、No.61号にある中田選手の事故、ともにスポッターに関する事故です。今回は記事紹介ではなくスポッターについて法的な面で検討してみたいと思います。
スポッターというのは、選手がトランポリンから転落するのを防ぐために配置される人員を指します。さらに選手自身が1名のスポッターを用意することができます。このスポッターは転落防止だけではなく、技を失敗してトランポリン上に危ない落下をしそうな時に、マットを投げ入れることができます。トランポリンは高いところから落ちる危険性があるスポーツですので、それに対する安全対策の1つです。スカイスポーツや飛込競技あるいは棒高跳びなどかなり高いところから落ちるスポーツはありますが、事故が起きた場合の緊急体制、救助要員はいても事故防止専用のスタッフがいるというのは珍しいように思います。つまり、スポッターというのはトランポリン独特の制度なのです。
だから、法的な問題は検討される機会はなかったのではないかと思います。そこで、スポッター制度の法的な問題について考えてみたいと思います。
スポッター制度に関しては、高いところから選手が落ちてくるので、選手自身がけがをするだけではなく、中田選手の事例のように補助に入ったスポッターも怪我をする可能性もあります。当然両者の衝突により両者がけがをする場合もあります。
つまり、事故が発生した場合、一方が加害者、片方が被害者となり、過失があれば、法的責任を負うこともあるということです。
次回は、スポッターが受傷した場合、次々回は選手が受傷した場合について検討していこうと思います。
2014年
10月
11日
土
スポッターについて2(スポッターが受傷した場合)
中田選手のように落ちてきた選手を助けようとして、受傷する事故は少なからず起きていると思います。実際地方大会でまるでプロレスを見ているようなシーンを目撃したこともあります。
スポッターがけがをした時、選手に過失があれば、過失責任が発生します。選手の過失とは無謀な挑戦、調整不足・練習不足の演技種目の実施など、またバランスを崩した時中断するか続行するかの判断ミスなども過失となりえます。選手自身の感覚ではなく客観的に見て問題なかったかどうかが法律上では検証されることになります。
競技会では、No.61(2006年11月)に書かれているように、器具の性能差による影響により練習通りの演技の実施が難しいこともあります。事前の練習でできないものを無理やり行った場合などは、やはり判断ミスとも言えます。当日の体調不良なども含めて当日の状況に応じて選手は難度を下げるなどの安全対策を行う義務を負っています。
トランポリンは個人競技でけがをするのも自分自身の責任そう思われがちですが、トランポリンでは安全対策として、スポッター制度を採用しています。場合によっては自分自身のけがではなく、スポッターという第3者に危険を及ぼす可能性があると常に心がけておかなければなりません。