転んでも手が出ない子

 トランポリンを始めると、苦手だった縄跳びがうまくできるようになるというのはよく聞きます。中には後ろ跳びのほうが前跳びよりも得意だという子もいます。これはトランポリンで跳ぶ時の腕の動きが後ろ跳びに近いことが関係しているようです。

 まだ自分が指導者になりたての頃に、トランポリンクラブに入ってきたこの話です。この子も、トランポリンを始めてから縄跳びがうまくできるようになっていました。さらに転ぶことも少なくなったとも言っていました(実際は本人ではなく母親からですが)。

 さてこの子は、転ぶ時手を出すことが出来ず、顔面から倒れることも多かったそうです。トランポリンを始めてから、転ぶことが少なくなったとともに、手をついて転ぶことも出来るようになり、顔のけがが減ったとのことでした。

 ここまで読むと、この話はトランポリンの有効性を示し、トランポリンをするとよいとトランポリンを進める前に書いているように思われるかもしれません。でもこの話は、トランポリンの有効性を示すために書いているのではありません。この話は運動神経をよくするということについて非常に大事な情報を書くために書いています。

 

 転んだ時に手をつかず顔面からつっこむ子を見て、運動神経がよいと思う人ないでしょう。たいていはどんくさい子と思うのではないでしょうか。つまりこの子はいわゆる運動神経が悪いという子なのです。この子の話を持ち出したのは、この子がなぜ転ぶ時に手をつくことが出来なかったか、そしてなぜ手をつくことが出来るようになったかを説明することが出来る情報を母親から聞いていたからです。

 このお母さんはちょっと過保護気味の人でした。そのため、初めての子は、転ばないように抱っこをすることが多かったそうです。そのため、抱っこ癖がつき下の子が歩くようになっても、抱っこ癖が抜けず、下の子の手を引いて、上の子を抱っこして移動することが多かったそうです。つまりこの子は抱っこで移動することが多く、自分で歩いて転ぶという経験がほかの子より少なかったのです。

 子どもが立ち上がるようになるとまず伝わり歩きをし、自分で歩くようになると転び、立ち上がりを繰り返します。どうすれば一番痛くない転び方を何度も転ぶうちに学習しているのです。抱っこでの移動が多く自分で歩く機会が少なく、上手に転ぶことを学習せずに大きくなったため、転ぶ際に自動的に手が出るような運動機能の獲得が行えなかったのです。

 トランポリンを習うようになると、よつんばい落ちで、手をつくことを習います。腰落ちでも手を使うことを習います。おそらくトランポリンをしてから、転ぶ際に手が出るようになったのは、よつんばい落ちなどで手をつくことを学習したからではないかと考えています。

 

 以上のことから言えるのは、転ぶという動作一つでも、先天的に行えるものではなく、後天的に学習することにより獲得される能力だということです。そのためには、転ぶということを経験することが必要だということです。さらにその経験は小学生になってから行うことでも補えるということです。

 つまり運動神経をよくするには、経験が必要であり、経験するには最適な時期はあるかもしれませんが、小学生になってからでもまだ間に合うということです。